彼の夏に染まりしもの

何年か前、まだ秋葉原がここまで趣都では無かった頃、
そこには中古CDショップが今よりたくさん存在していた。

あまりにも売れすぎてしまい、中古CDとして価値の無くなったアーティストや、
逆に一枚だけCDを出すことが出来たけれど、そのままどこかに消えてしまった
アーティストのアルバムが、捨て値価格100円で道路に面した店頭の棚に
ざらしにされていたものだった。
 
その頃の自分の中のハヤリの遊びが、売れなかったアーティストの100円CD群の中から
当たりCDを勘でゲットするというもの。
少なくともCDを出せるくらいのアーティストだから、
ある一定レベルは超えているからこそ出来る遊びなわけです。
 
ルールは以下の通り単純なもの。
 
二曲以上いい曲が入ったCDなら俺の勝ち。
一曲だけいい曲が入ったCDなら引き分け。
いい曲がないなら俺の負け。
 
とはいえ、さすがは消えていったアーティストのCD。
なかなか勝てるものではなかった。
ま、失敗しても100円なので、どうということもなし。
 
そんなこんなで、とある夏の日、例によって100円CDを数枚ゲット。
「!?」
その中の一枚だけ、ジャケットと中身のCDが異なっていた。
といっても、売れすぎたアーティストの中古CDなわけでもなくて。
 
そのアーティストのバンド名は知っていたが、ちゃんと曲を聴いたこともなく、なにより嫌いだと思っていた。
(今となってみれば分かる話だけれど、そんな中古価格100円で売られるような
CDではないのです)。
 
運命の神様、あるいはレティクル座の神様のイタズラか、
紫色のレーベルのCDは今も僕の手元にあり、
最初に聞いたときの震えるような感覚を、今も思い出すことができる。
 
筋肉少女帯「月光蟲」。
その夏、月の裏のクレーターからの毒電波に染まっていた。

月光蟲

月光蟲